SF小説の装丁はこうやって作られた 〜『天冥の標』完結記念トークイベントレポート〜

INEIの富安健一郎が装丁画を担当したSF小説『天冥の標シリーズ(小川一水著)』。シリーズ最終巻が2019年2月に発売され、ついに完結を迎えました。完結を記念して開催されたートーク&サイン会の様子、そして富安がこの作品にかけた思いや制作裏話をまとめてご紹介します!

 

◎10年越しについに完結! 『天冥の標』完結記念トークセッション

2019年3月23日、池袋ジュンク堂にて”『天冥の標(てんめいのしるべ)』完結記念トーク&サイン会”が開催されました。お話したのは著者の小川一水先生、編集を担当した早川書房S-Fマガジン編集長の塩澤快浩さん、そして装丁画を担当したINEI富安健一郎です。会場では同時に装丁画のパネル展示も行われました。

このトークセッションは予約開始後、数時間で満席に。当日も開始前から大変込み合っていました。会場では書店スタッフさん制作の各巻の情報が掲載された”『天冥の標 』ミニブック”が配布され、参加者もスタッフも大変気合が入ったイベントとなりました。

 

◎『天冥の標』の装丁はこうやって作られた! 制作裏話

今回のイベントはその場で参加者から質問を募り、それに3人が答えるというQ&A形式で進められました。コアなファンが集っているだけあり、熱い質問が飛び交う会場。嬉しいことに富安にもいくつか質問をいただきました。中でもあの装丁画がどのように作られたのか気になる方が多かったようですので、当日お答えしきれなかった内容を詳しく解説いたします。

 

なぜこのシリーズの装丁画を描くとこになったの?

そもそもなぜ富安がこの作品の装丁画を担当することになったのか。そこには早川書房が刊行しているSF専門雑誌『S-Fマガジン』と富安との長い歴史があります。

中学生の頃の富安少年の夢は「S-Fマガジンの表紙を描くこと」。その後大人になってコンセプトアーティストとして活動を始めた富安は、2007年頃にS-Fマガジンの出版元である早川書房にポートフォリオを送ります。幸いにも編集部でご好評いただけたようで、S-Fマガジンの表紙やブライアン・W・オールディズの『地球の長い午後』新装版の表紙を担当しました。

その頃丁度小川一水先生の新シリーズの企画があり、富安の絵と世界観がマッチするのでは、と抜擢していただけたのかと思います。

 

最初に編集の塩澤さんに作品のことを聞いたときにはすでに「完結まで10冊、最低でも10年はかかりそう」と言われていました。ストーリーの結末はその頃からある程度決まっていたそうです。

 

実は装丁画を描くことにが決まっても著者である小川さんとの打ち合わせはなく、初めて顔をあわせたのはシリーズが始まってから5年後くらいでした。

 

装丁画はどんな流れで作られるの?

本作品の場合、装丁をどんなイラストにするかは編集の塩澤さんと話し合って決めていました。まだ小説が書きあがっていないことが多いので、打ち合わせでその巻のストーリーや印象を教えてもらい、その場でラフを描いてイメージをすり合わせていきます。

こちらが打ち合わせの様子です。最初はホワイトボードを使って話し合いながら完成イメージを共有します。

大きなテーマと有機物にするか幾何学にするかなどの構成のイメージを決めてから、どんどん詳細を詰めて完成まで進めます。

こちらが完成稿です。ラフと比べると結構印象が変わっていますね。

 

制作過程では何度も提出することはなく、できあがったら画像を送る、といったようにほとんど任せていただきました。最初のころは表紙の下の方に帯がつくことなど考えていなかったのですが、途中で下の方が見えなくても成立するような構図に変えて描きなおすこともありました。

 

最終的に10巻で完結ということはわかっていたので(17冊になりましたが)、すべてを並べたときの色合いには気をつけて描きました。それぞれの表紙にテーマカラーがあったこと、みなさんお気付きになりましたか?各巻のことを「あの白い表紙の」「ピンクの」「毒っぽい」など印象で覚えていただけるようにしてあります。

作者お気に入りの表紙は?

どれも全部楽しく描きましたが、富安のお気に入りは6巻。この巻のテーマは「宇宙戦争」でした。このようなSF的な世界観が大好きで、もういくらでも描きたい!と思えるような絵を描かせていただきました。

6巻表紙

 

ちなみに、小川一水先生のお気に入りは7巻だそうです。孤独、絶望の感じが出ていて良い、との感想をいただきました。

7巻表紙

 

みなさんのお気に入りはどの巻ですか? 読む前、読んだあとに表紙の絵を見てみてくださいね。

 

◎小川一水先生、お疲れ様でした! 完結を迎えて

今回はトークショーで富安にいただいた質問などを、さらに詳しく解説させていたしました。トークショーのあとに行われたサイン会ではファンの方から「ありがとうございました」とたくさん言っていただき、改めてこの時代の代表作になるようなSF作品に携われたことを嬉しく感じました。

 

未完結で終わってしまう長編作品も多い中、最後まで書き切った小川一水先生、本当にお疲れ様でした。富安にSF少年になるきっかけをくれた早川書房さんにも少しでも恩返しできていたら幸いです。

 

天冥の標シリーズ、もし「まだ読んでない」という方がいらっしゃいましたらとても面白い小説なのでぜひ手に取ってみてくださいね。SF好きならきっと、楽しめるはずです。