5月16日(水)、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科でイラストレーションの授業を受け持っている横山宏さんの講義にINEI代表の富安をお招きいただき、特別講義を行いました。


【横山宏(よこやま こう)さん】

イラストレーター/モデラー。SF小説の挿絵や映画、ゲーム等を多く手掛けている。  代表作に『マシーネンクリーガー(S.F.3.Dオリジナル)』がある。武蔵野美術大学日本画科卒

横山さんは武蔵野美術大学の日本画科を、富安は同じく武蔵野美術大学の工業デザイン学科を卒業している武蔵美のOBです。

講義開始前の打ち合わせでは「自分の後輩であり、プロの卵である学生に対して、毎回本気で向き合うようにしてるんです。」と語って下さった横山さん。その言葉通りの本気と熱量を感じる3時間となった講義の様子をレポートしていきたいと思います。


講義の様子

1時限目は、富安の自己紹介とコンセプトアートの紹介を兼ね、富安が参加したスクウェア・エニックスのプロジェクト「Agni’s Philosophy – FINAL FANTASY REALTIME TECH DEMO」のPVを生徒さんにお見せするところから始まりました。コンセプトアートとは映画・ゲーム・CMなどを製作するにあたって、その作品が持っている雰囲気やコンセプトを一番最初にビジュアル化する仕事であり、重要なのはどれだけ作品のコンセプトを表現できているかどうかだと説明しました。

現実世界に存在しないものを多く描く富安に、「どうやったら実物を見ずに描けますか?」という質問がありました。

実在しないものを描くとは言っても全く何も参考にしないわけではなく、写真集や画集、Googleの画像検索など様々なものからインスピレーションを得ています。ただ、例えば宇宙船をデザインすることになった際に、Google画像検索で「宇宙船」と検索するのは悪手であると答えました。富安は、宇宙船を描いて欲しいというオーダーが来たら、「ヤカン」や「サーフィン」など全く関係ないものから連想して、その宇宙船に一番求められている大切なコンセプトは何かを探し当て、形にすることが大事だと語りました。

横山さんは「見ないで描くには、まずは頭を使うことが大事なんですね。」とまとめて下さいました。

「こういうシーンを描くならこういう色使いとこういう構図がいいだろうな、とパッと浮かんでくるんですよね。」と話す富安に対し、横山さんから「その引き出しはどう増やしたんですか?」という質問がありました。富安は、自分の好きな映像作品のワンシーンを模写するなど、とことん分析して研究したと答えました。映画や美術鑑賞は表現力を高めるのに効果的ですが、ただひたすらに多くの作品を見ればいいというわけではなく、「この作品はなぜいいのか?」ということを深く突き詰めて考え、ロジカルに分析することが大事だと語りました。

また、横山さんは、富安の作品と生徒さんの作品の差は手数の多さだと言います。

「アマチュアの君達も高い技術の絵を描くんですけど、作品にかけている時間が多いんですよね。君達が一筆迷ってる間に富安さんだったら5個ぐらい(手数を)入れてるの。手数が多いとなぜいいかというと、丁寧に見える作品になるんですよね。作品を丁寧に組み上げていくということが、嘘をつく時に一番大事なことなんですよ。」と仰っていました。

横山さんの手数の話を受けた富安が、「僕、その点でショックだったことがあって…昔、ハリウッドの有名スタジオで仕事をしている友達に自分の自信作を見せたところ、『描き初めにしてはいいんじゃない?』と言われたんです」と、絵の修行時代のエピソードを語りました。

そのショックな出来事から富安が気づいたことは、自分が限界だと感じたところからその限界の先を目指さないことには話にならない、ということでした。それ以来描く作品一枚一枚に対して、「この絵は自分の人生で最期の作品だから絶対に妥協しない」と思いながら取り組みはじめたところ、自分の以前の限界を遥かに超えた作品が作れるようになった、と話しました。

「今の富安さんの話を聞いて、すっごく頑張ってこの域に達した方だっていうことが皆も分かったと思うんですけど、側から見れば大変そうな努力も、好きなことであれば苦労だと思わずに続けられるんですよね。」と横山さん。好きなことこそ仕事にすべきであるし、好きなことを続けるために健康にも気をつけるように、と仰っていました。

また、2時限目に生徒さんの作品を富安が講評する時間があるため、横山さんから作品を人に見せることの大切さについてのお話がありました。

「100枚の絵を描いて1人に見せるより、1枚の絵を100人に見せた方が、何百倍も成功の確率が上がります。」と言う横山さん。人に自分の作品を見せてプレゼンする練習として、講評では自分の絵を思いっきり自慢するようにと仰っていました。

VRのプレゼンテーション

今回の特別講義はINEIにとって学生さんと接する貴重な機会だったので、INEIスタッフの福永によるVRコンテンツのプレゼンテーションも行いました。

VRのプレゼンをするINEIスタッフの福永

VRがどういったものかの説明から始まり、VR技術を用いたチャットシステムや、VR空間で立体的にイラスト制作ができるアプリケーションの紹介を行いました。

3月にINEIが開催した未来世界遺産展では、ストーリーテリングを担当していただいた冲方丁さんとの打ち合わせの際に、絵のスケール感を知ってもらうためにVRを使用したというエピソードを話すと、横山さんは「今後キュレーターにも必要な技術になってきそうですね。」という感想を下さいました。

今後INEIでは、こういった「テクノロジー×アート」や「考え方×アート」の発展にも力を入れていきたいと考えています。

実際に機材を用いて、生徒さんにVRのアプリケーションを体験してもらう時間も設けました。

作品講評

2時限目は生徒さん達の作品の講評です。

机の上に、今まで横山さんの授業で制作した自画像と風景画、加えてポートフォリオや生徒さん達が普段授業外で制作している作品などがずらりと並べられ、先生も生徒さんも一緒に自由に見て回る時間がありました。

笑顔で作品を褒める2人
生徒さんの作品

その後生徒さんの個別の講評を行いました。事前に横山さんから「自分達の作品を自慢する」というミッションを課せられていた生徒さん達は、少し恥ずかしがりながらも生き生きと自分達の作品をプレゼンしてくれました。

自画像と風景画のプレゼンも興味深かったですが、生徒さんが普段趣味で描いている多種多様なイラストや漫画、キャラクターデザインや二次創作などのプレゼンに移ると皆さん自然と言葉に熱が入ってきて、楽しそうに紹介してくれる様子がとても自由で印象的でした。

富安は「やっぱり皆好きなものを描いた絵はクオリティが高いので、好きなものをそのまま描き続けてください」と総評を述べました。

こんなシーンも

講評終了後、沢山の生徒さんがVRの体験を希望してくれました。楽しんで頂けたようで何よりです。
こちらも講評終了後の様子です。有志の生徒さんが個別で富安から作品の添削を受けていました。自然と周りに生徒さんが集まってアドバイスのメモを取っていました。

取材担当スタッフの感想

私は今年の3月に美術大学を卒業した身なのですが「この授業を学生時代に受けておきたかった…」と、本気でこのクラスの生徒さん達がうらやましくなりました。

私が学生の時の授業の場は先生に趣味のイラストを見せられるような雰囲気はなく、私はこっそりとイラストを描いてネットに上げることを繰り返していました。

こういう風に自分の創作活動を受け止めて尊重してもらえて、なおかつ意見交換ができる場というのは本当に得難いものだと思います。取材をしつつも一生徒としてとても勉強になりました。

富安の感想

僕にとって、感動的な時間となりました。

まず小学生の頃から憧れていた伝説のアーティストである横山宏さんにお声がけいただいた事、次に在学時代はどちらかというと褒められた学生ではなかった武蔵野美術大学で仲間とともにやってきてお話しする機会が出来たこと、そして講義を受ける学生のキラキラ輝く顔をみれて、お話をして、自分の仕事に対する多くの発見を得たこと。

何かを教えられればという気持ちで望んだのですが、逆の多くの事を教わりました。

僕は大学を卒業してから10年ぐらい回り道をした後で今の仕事をしていますが、もし学生時代にこの授業を受けて何かに気がついていれば、もっと早く自分のやりたいことが出来ていたかもしれません。もちろん失敗も含めて全ては勉強ですが、その事を考えると愕然としました。

まさに現在進行形でこのような機会の最中にいる学生さんは本当にラッキーだと思いますし、実際に彼らが数年後に世界中で活躍している姿をビジュアルとしてイメージできました。

このような素晴らしい機会をいただいた事を感謝しています。ありがとうございました。


この講義の模様はCGWORLD entryさんでも記事にしていただく予定です。詳細は後ほどブログでお知らせいたします。

横山さん、取材にご協力いただいた生徒の皆さん、誠にありがとうございました!